アメリカ障害者改正法:その改正点と対応策
October 3, 2008
アメリカでは障害を持つ者を差別から守る“Americans with Disabilities Act of 1990”(以下「アメリカ障害者法」)と呼ばれる法律が1990年より施行されていますが、このアメリカ障害者法の改正法案が連邦議会で可決されました。この改正により、「障害有」の基準が実質的に下げられ、そのことにより、これまで以上に多くの人が「障害者」と認定されることにつながり、その結果雇用主の負担が増大することが考えられます。具体的には、腰痛を持つ従業員、揚重制限をもつ従業員、糖尿病や癲癇等の症状を抑えるために薬の服用を要する従業員などもアメリカ障害者法により保護されることになります。雇用主はこういった「障害」に対し適切な便宜を図る責務を負うことになり、今後アメリカ障害者法に基づく雇用者・従業員間の訴訟件数が増えると予測されます。
障害の定義である「主な日常的な活動を行う上で相当程度の制限を受けること」の裁判所による解釈が不当に高い基準を要求するものになっていたため、これまでその定義に当てはまらない(よって障害は認められない)として数多くの原告従業員がアメリカ障害者法の保護を受けられずに来ました。特に最高裁判所は、アメリカ障害者法に基づいて障害と認められる症状の範囲を制限する結果になる解釈を示し、雇用主側に多くの勝利をもたらしてきました。そのうちの1つがToyota Motor Manufacturing, Kentucky, Inc. v. Williams 事件(2002年)でした。
今回の改正アメリカ障害者法により、今後は原告従業員に「障害」がある事が認められやすくなり、原告側が勝訴するケースが多くなるというのが一般的な見方です。
今回の主な改正点
可決された法案はブッシュ大統領により署名されるであろうと見込まれていますが、そうなれば、本改正法は来年1月1日より施行されます。来年1月1日以降も障害者として認められるには、日常生活を送る上で相当程度の制限を受けるような症状、障害を持つ場合に限られますが、改正法の根底に流れる考え方は「アメリカ障害者法の下での障害の有無の判断には大掛かりな分析・調査は不要」という考え方です。今回の主な改正点は具体的には以下の通りです。
• 「主な日常的な活動」の定義を拡大
従来のアメリカ障害者法の下では障害があると認められなかった従業員でも1月1日以降は障害者として保護を受けることになるかも知れません。アメリカ障害者法適用判断の為の手順のようなものを設けている雇用主は、その見直しが迫られます。
アメリカ障害者法の下では、雇用主は障害を持つと判断された従業員に対し妥当な範囲での便宜を図ったり、融通を利かせるといった義務を負います。例えば、昼間勤務、夜間勤務を一定期間で交代する制度を取っている会社で、視覚障害のため夜間に車の運転をすることができないという従業員がいる場合、当該従業員が昼間勤務のみを続けるスケジュールへの変更を求めることが考えられます。(このことにより他の従業員から不公平を訴える声が上がるのは確実と思われます。)あるいは、一定以上の重さの物を持ち上げられない従業員には他の作業に就かせるといった業務内容を変更をするようなことが求められます。しかし、雇用主は障害を持つ従業員への便宜を図るためにその従業員が就く仕事の絶対不可欠な核となる業務まで変更したり、担当から外すことまでは要求されていません。つまり、30ポンドの物を持ち上げる作業が当該従業員の仕事の「絶対不可欠な核となる業務」(Essential Function)であれば、他の作業をするポジションに就ける/変更する必要はありません。
本改正後、アメリカ障害者法に基づく障害差別の訴えは、従業員に障害があるか否かという点よりも、雇用主がその従業員のために適切な便宜を図ったか、特定の業務がその従業員の就くポジションの絶対不可欠で核となる業務であるかという点に的が絞られると考えられます。このような前提に立てば、雇用主としては従業員のそれぞれのポジションについて職務内容(Job Description)を見直し、個々のポジションの「絶対不可欠な核となる業務」を明確に記したものを準備することが改正法に対する最も効果的な対応策と言うことができます。
障害の定義である「主な日常的な活動を行う上で相当程度の制限を受けること」の裁判所による解釈が不当に高い基準を要求するものになっていたため、これまでその定義に当てはまらない(よって障害は認められない)として数多くの原告従業員がアメリカ障害者法の保護を受けられずに来ました。特に最高裁判所は、アメリカ障害者法に基づいて障害と認められる症状の範囲を制限する結果になる解釈を示し、雇用主側に多くの勝利をもたらしてきました。そのうちの1つがToyota Motor Manufacturing, Kentucky, Inc. v. Williams 事件(2002年)でした。
今回の改正アメリカ障害者法により、今後は原告従業員に「障害」がある事が認められやすくなり、原告側が勝訴するケースが多くなるというのが一般的な見方です。
今回の主な改正点
可決された法案はブッシュ大統領により署名されるであろうと見込まれていますが、そうなれば、本改正法は来年1月1日より施行されます。来年1月1日以降も障害者として認められるには、日常生活を送る上で相当程度の制限を受けるような症状、障害を持つ場合に限られますが、改正法の根底に流れる考え方は「アメリカ障害者法の下での障害の有無の判断には大掛かりな分析・調査は不要」という考え方です。今回の主な改正点は具体的には以下の通りです。
• 「主な日常的な活動」の定義を拡大
これまでは日常生活を営むに当たり中心となる行動のみに限られていたところ、今回の改正法は立つ、物を持ち上げる、身を屈める、読む、集中する、手を使う作業をする、考える、仕事をする、自分の身の回りの世話をする、見る、聞く、食べる、眠る、歩く、話す、呼吸する、学ぶ、人と情報交換する、といった行動を具体的に掲げています。よって、これらの活動1つにでも相当程度の制限があれば障害者として法の保護を受けることになります。• 各種身体機能も定義に追加
また、今回の改正法で定義される「主な日常的な活動」には上記の「行動」「活動」のみならず、各種身体機能の働きも含まれます。この身体機能とは免疫システム、正常な細胞の成長、消化機能、腸機能、膀胱機能、脳神経機能、呼吸機能、循環機能、内分泌機能、生殖機能などが対象となり、これらの機能不全も「障害」と認定され、法律の保護を受けることになります。• 薬物、補助技術は判断基準から除外
対象となる症状や障害が薬の服用や義肢、補聴器、医療機器・補助技術の使用により取り除くことが出来たとしても、それは障害と認められます。つまり、上記のような薬による症状緩和や補助・矯正措置による効果を勘案せず、障害の有無を判断する事になります。よって、従業員の訴える障害が医療措置により緩和・矯正され、主な日常的な生活が行える場合でも、医療措置をしない状態では日常生活に支障をきたすということであれば、障害者と認められることになります。• 症状・障害の可能性を重視
今回の改正法の下では、症状や障害が発作性のものであったり、寛解期にある場合でも、その症状・障害が発生または悪化した時に日常生活に支障をきたすと判断されれば、障害として認められます。• 障害差別を訴えやすい環境に
また、今回の改正により、従業員はアメリカ障害者法に基づき、障害差別を訴えやすくなると考えられます。身体的または精神的障害あるいは欠陥を持つ(もしくは持つと見做される)ことを理由に差別を受けていると判断された場合、その障害・欠陥が実際に主な日常生活の支障となる(もしくは支障となると見做される)か否かに関わらず、その個人は障害者と認められます。(この障害が6ヶ月以下の一時的なものであったり軽微なものである場合は除外されます。)改正法では、雇用主はこういった障害があると「見做される」だけの従業員に対して特別な便宜を図る必要はないとしていますが、この新しい定義により、特に本来の障害を持たない従業員でも障害による差別を訴えることができる環境を生むことになります。• 採用試験にも配慮が必要
最後に、改正法の下でも一般的な眼鏡を必要とする者は障害者とは認められませんが、雇用主に対し従業員の採用、あるいは昇進・昇給を検討する際にこうした点(例えば眼鏡の着用)を基準にしてはならないとしています。例えば、採用、あるいは転属の対象となるポジションに視力が関係する場合や業務を行う上で必要不可欠である場合を除き、対象者の裸眼視力に基づく選考基準を設けたり、同基準をベースにした採用テストを行うことを禁止しています。雇用主が取るべき行動は?
従来のアメリカ障害者法の下では障害があると認められなかった従業員でも1月1日以降は障害者として保護を受けることになるかも知れません。アメリカ障害者法適用判断の為の手順のようなものを設けている雇用主は、その見直しが迫られます。
アメリカ障害者法の下では、雇用主は障害を持つと判断された従業員に対し妥当な範囲での便宜を図ったり、融通を利かせるといった義務を負います。例えば、昼間勤務、夜間勤務を一定期間で交代する制度を取っている会社で、視覚障害のため夜間に車の運転をすることができないという従業員がいる場合、当該従業員が昼間勤務のみを続けるスケジュールへの変更を求めることが考えられます。(このことにより他の従業員から不公平を訴える声が上がるのは確実と思われます。)あるいは、一定以上の重さの物を持ち上げられない従業員には他の作業に就かせるといった業務内容を変更をするようなことが求められます。しかし、雇用主は障害を持つ従業員への便宜を図るためにその従業員が就く仕事の絶対不可欠な核となる業務まで変更したり、担当から外すことまでは要求されていません。つまり、30ポンドの物を持ち上げる作業が当該従業員の仕事の「絶対不可欠な核となる業務」(Essential Function)であれば、他の作業をするポジションに就ける/変更する必要はありません。
本改正後、アメリカ障害者法に基づく障害差別の訴えは、従業員に障害があるか否かという点よりも、雇用主がその従業員のために適切な便宜を図ったか、特定の業務がその従業員の就くポジションの絶対不可欠で核となる業務であるかという点に的が絞られると考えられます。このような前提に立てば、雇用主としては従業員のそれぞれのポジションについて職務内容(Job Description)を見直し、個々のポジションの「絶対不可欠な核となる業務」を明確に記したものを準備することが改正法に対する最も効果的な対応策と言うことができます。


